ブータンから学ぶ電力観

「ブータン」という国をご存知でしょうか?
インドと中国に挟まれた小国で、過度な近代化を避け、今なお農業を主体とした生活を送っている国です。

ブータンはGNHを提唱したことで、世界でも一躍注目を浴びました。国の豊かさを現す数値としてよく使われる指標はGDP(Gross Domestic Product)です。国内総生産とも言いますね。しかし、ブータン国王は、GDPと国民の幸福は比例しないとして、新たに国民総幸福、GNH(Gross National Happiness)を提唱します。

このGNHを高める手段として、ブータンは

1)公正で持続可能な社会経済発展
2)環境保全(国家への愛と尊敬)
3)文化遺産への保存と促進
4)よい統治

が必要だとしています。

また実際にブータン政府が2005年に行った調査では、「あなたは今幸せですか?」という質問に「すごく幸せ」45.2%、「幸せ」51.6%。あわせて96.8%という非常に高い結果が出ました。一方2003年の日本の調査では、51.9%が「幸せ」(5段階のうち「幸せ」と「まあ幸せ」の合計)という回答をしています。

と、ここまで簡単にブータンをご紹介しましたが、実はブータンの最大の輸出商品は「電力」なんです。高度な山が連なるヒマラヤの斜面を生かして水力発電を行い、その電力をインドに売却しているのです。ブータンの総発電量は14億8000万キロワット時、しかし国内で使用しているのは1億8400万キロワット時に過ぎません。実はここに、「電力」というものを考える上での大きなヒントがあります。

ブータンでは着々とインフラの整備が行われていますが、それでもまだ電気が通っていない所もあります。しかし、電力消費量の低さの理由はそれだけではありません。

ブータン国王は、「どうすれば無駄に電力を使うことを避けられるのか」と考え、その答えとして「国民が電力は作るものではなく、与えられるものだと感じてしまっているからだ」としました。そこで、可能な村すべてに川の流れを生かした水力発電所をつくり、その水力発電で作られた電力量のみで村人が生活するようにしたのです。

それによって国民は「自分たちが電力をつくっている」という意識を持ち、自然と電力使用を控えるようになったのです。農業と同じように、電力を「生産」しているのです。

家庭に太陽光発電を導入した方からも、「家庭で電力を作るようになって、節電を意識するようになった」という声はよく聞かれます。

日本での生活において、自家発電のみで生活していくのは非常に困難でしょう。しかし、私たちは「電力」をどう捉えているのか、ということを考えるのはとても大事です。夏の計画停電によって、今まで無尽蔵にも思えた電力が限りあるものだったことが分かりました。私たちにとって電力とは何でしょうか?

少なくとも、この先、「一方的に与えられるもの」と考えていくのは困難でしょう。